ACACIA−アカシア−

ACACIA−アカシア−
無用に引っ張る長廻しや暗転の長さには閉口。カットバックなしで台詞で処理したのが致命的でした。　何と言っても本作の注目は、映画初主演の猪木でしょう。

　函館の廃墟となっていた市営住宅を、再生してロケ地としたため、いかにも老人ばかりが暮らす昔ながらの戸建て団地といった趣のロケ地を背景に、猪木が演じる元プロレスラーの大魔神も、どこか精細を欠き、かつて悪役で鳴らしたというスター選手の輝きを微塵もみせない老いを見せつけけていました。

　そしてキモとなるのは、過去を思い出して男泣きするシーン。なかなかの名演技でした。他のところでは、良くも悪くもイノキ流。タクロウ役の天才子役の林凌雅くんの方が遙かに演技が上手いので、監督の指示でずいぶん猪木の台詞はカットされたそうです。



物語は、子供を幼くして失った事がきっかけで別れてしまった元プロレスラーとその妻が、子供の命日に再会し、過去の痛みを乗り越えていくというもの。

　タイトルのアカシアは、夫婦が住んでいた庭に植えられていた思い出の樹であり、再会する場所にも、まるで幸福の黄色いハンカチのように白い可憐な花を咲かせていたのでした。



　映像のタッチは、わざとソフトフォーカスで青みかがった色彩。アカシアの木々からこもれる光と相まって、無性にノスタルジーをかき立てられます。ただそれに加えて演出までレトロ感たっぷりなんです。ところどころ無用に引っ張る長廻しや暗転の長さには閉口しました。まるで低予算のロマンポルノや在りし日のＡＴＧ作品を見ているかのようでした。

　本作は辻監督自身の原作なので、一つのシークエンスに対する思い入れが強すぎて、どうしてもカットできなかったのではないでしょうか。

　もう一つ致命的なのは、いじめによって子供を殺された当時の重要なシーンが、カットバックされず妻芳子と大魔神の会話だけで、処理されてしまったことです。

　それではせっかくの猪木の男泣きするシーンが、浮かばれません。一人の男が背負っている痛みの大きさは、台詞でなく映像で見せてこそ、痛みを観客も分かち合えるのです。　大魔神がなぜ泣き崩れたのか、それは大事な試合中で、自分の息子のエイジの死亡すら知らされなかったことばかりではありませんでした。

　大魔神が卑怯なラフプレーで勝利していることに、エイジは常に負い目を感じ、それが元で、学校でいじめられていたのです。そんな事も理解できず、大魔神はわが子に一方的にプロレスを教え込もうとしていたのでした。芳子が語る「自分もプロレスラーの妻だから、悪役の約束事くらいわかっているわ。」という言葉が、大魔神の胸を突き刺します。　エイジの気持ちを汲んでやれなかったという懺悔の気持ちが、男泣きに繋がったのでした。だからこそその当時の試合シーンやエイジがいじめられるシーン、そして夫婦が離婚を決意するシーンは、再現してほしかったのです。

　そんなふたりを過去のことは忘れて、よりを戻すように口説くのが、エイジによく似た少年タクロウでした。彼もまた両親が離婚して、母方に預けられ、自分を棄てた父親を憎んでいました。　

　ひょんな事でタクロウと同居し、父親代わりとなった大魔神は、タクロウと実の父親の春男と和解を画策します。

　大魔神とタクロウの双方に過去の心の痛手を負ったもの同士が寄り添う姿は、微笑ましかったです。



　但し、タクロウの身柄が母親の身勝手な理由で大魔神に強引に押しつけられる設定には、疑問。子供を赤の他人に押しつけて、男の尻を追いかける母親がいるものでしょうか。　そして、そんな無責任な母親に親権を取られてしまった春男の行動にも疑問です。いくらタクロウの成長した姿を知らないといわいえ、大魔神の暮らす団地の老人たちを担当するケースワーカーをしていたら、タクロウの存在を気付くはずです。心の奥の思いを腹話術の人形に向かって吐露するほどタクロウを愛していた春男だったら、即刻タクロウを引き取ったはずです。

　それにしてもタクロウを演じた林凌雅くんは凄い天才子役です。舞台挨拶でも緊張する猪木を尻目に、まったく臆することがなく挨拶していました。その自然体な演技は、ぜひ注目してください。



　その他、せっかくの老人の街なのに、老いとはそして死するとはという根本のテーマのアプローチも不発で、付け足しになってしまったことが残念です。またラストで、死んだエイジの幻影とバトルするプロレスシーンも意味不明。ほとんど白装束だったため、いっそ、そのまま大魔神が死んでしまった設定の方が良かったのではないでしょうか。アカシアの樹の下で大魔神を待つ芳子に、タクロウがその死を告げに行くほうが、ドラマとしては印象を深めたものと思います。西田佐知子が謳う♪『アカシアの雨がやむとき』の唄の歌詞のように。

ttp://movie.goo.ne.jp/usr/10012773/movie/MOVCSTD16241/index.html
「合縁奇縁」という慣用句があります。
主に男女の出会いや友人との巡りあいに用い、結婚したり親しくなったり
するのもしないのも、全て因縁によるということですね。。
運命ともいえますか。。運命って信じますか？？


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